地球一周クルーズ「ピースボート」回想録 ランニングマシーン

どんなジムにも置いてある、ランニングマシーンは、すごいマシーンだと私は思っている。
あたしは、船に乗って、今までの健康おたく系食生活の反動からか、お菓子過食症気味になった。
最初の一ヶ月間、チアの後アイスを食べ、パソコンに向かっているときハッピーターンを食べ、お昼の3時になると午後ティーと呼ばれるものにいそいそと足を運び、3人前くらいのクッキーやケーキを食べ、という、堕落したおばちゃんのような生活をしていたのだ。

一方、これじゃだめだめという気持ちから、ジムにだけは毎日通い、ランニングをしていた。
しかし、ランニングマシーンで走るというのは、やってみると、「あたし、運動してる、走ってる」という作り物っぽい爽快感のようなものはあるが、ずっとおんなじところを繰り返し足を動かしているだけで、退屈極まりない。走るのがきついというより、ずっと同じ行動を繰り返しているだけという単調な作業に飽きてしまうのだ。

 

初めはすぐ前にあるスポーツデッキでスポーツをしている人を観察し、あの人結構バレーへたくそだな、とか、あの人意外にバスケうまくてかっこいい、とか、しょうもないことを考え気を紛らそうとしていたのだが、あるときふと、すばらしいことを思いついた。
そうだ、人生計画を立てよう。
こんなにじっくりしかも気を取られることのない30分は、あたしの24時間の中では絶対に存在しない。ということで、いろんなことを考え出した。

 

まず、あたしのやりたいことはカリスマ主婦になること。
カリスマ主婦というのは、「ベトナムのお宅で料理を習おう」という、いかにも20代後半から30代の独身女性をターゲットにしたツアーに、同室のミッキーが参加して、帰船後に教えてくれた、キーワードである。
ミッキーが訪れたベトナムのお宅は、メイドさんが2人いる大邸宅で、ベトナム人なのに日本の雑誌にも何度も載ったことのある、料理のうまい、いわゆるカリスマ主婦のお宅だった。
ミッキーは興奮して、自分はただ春巻きの皮を巻いただけだったにもかかわらず、あの人はすごいと絶賛していた。
ミッキーは基本的に辛口な人だ。
あたしが今まで会った中で一番の旅行好きさんで、モルディブに4回行ったとか、マチユピチユはまあまあかな、とか、あの小さな体と一見優しげな顔からは想像できない、パワフルで辛口な批評をいつもしている。
そのミッキーが絶賛しているカリスマ主婦に、あたしは簡単にやられた。
これだ。カリスマ主婦。
カリスマという言葉がつくだけで、おばちゃんというイメージの主婦が、あたしの目指している黒木ひとみのような素敵な大人の女性になる。

こうして、カリスマ主婦はもうすぐ主婦になろうというあたしの一大キーワードとなった。

 

ある日、いつものように、洗濯をしに、洗濯機コーナーへ行き、洗濯の終わった洗濯物を部屋に干し、乾いた洗濯物をたたんで・・というところで、ついついうたたね。

洗濯物に囲まれ、ベッドに寝ていたあたしに、帰ってきたルームメートが一言、

「何がカリスマ主婦や。」

うむ。
カリスマ主婦への道は、まだまだ遠い。

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